1992299 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

せいやんせいやん

せいやんせいやん

その11(10話)

101
【白昼に】


寝入りばな、チャイムが鳴った。

誰だ、貴重な昼寝のじゃまをするやつは。

茶の間に行き、インターフォンのボタンを押す。

「はい。どちら様でしょうか?」

「新潟県直送のずわい蟹はいかがですか?」

「間に合ってます!」

まったくもう。もうすこしで眠れそうだったのに。

寝室に戻ると女がいた。

「うわっ! びっくりしたあ!」

うぐいす色の着物姿。楚々とした雰囲気。

ベッドのよこにからだを投げ出し、背中をむけ、うつむいている。

目の錯覚だろうか、輪郭がぼやけている。

「だ、誰だ、あんた」

口にそえている手がふるえている。泣いているようだ。

「わたくしは、あなた様がさきほど見るはずだった、

 夢の中の女でございます」

「なんだって!」

女の姿はしだいに薄れていく。

「おい、待て! 待ってくれえ!」

女は顔も上げぬまま、消えた。香木のかすかな残り香。

どんな夢だったのだろう。


------------------------------------


102
【スピード狂】


「あんのやろう。 負けてたまるかあ!」

「き、機長ぉー! なにやってんですかあ?!」

「見りゃあ、わかんだろ。

 横のハイウェーを並走してるスポーツカーと競争してんだよ」

「は、はやく離陸してください!

 滑走路のむこうは海ですぅわあああああああああああ」


------------------------------------


103
【推定無罪】


「ピッチャー、ふりかぶってえ、投げたあ。

 バッターニチロー、フルスイング!

 おっと、ボテボテのショートゴロ。

 ニチロー、全力疾走。

 あっ、ニチロー、お尻のポケットからなにやら取り出したあ。

 どうやらトンカチのよう。

 あああああ!

 一塁を駆け抜けざま、そいつで塁審のあたまをかち割ったあ!」



一塁審判ハワードは即死。

州警察での取調べの際、ニチローは計画的犯行であることを自供。

『妻と浮気をしているハワードに制裁を加えた。

 殺す気はなかった』とのこと。

プレイ中の犯行のため、野球ルールが適用され、ニチローは無罪放免。

『審判は石ころ扱い』なのだ。


------------------------------------


104
【決闘】


リモコンでテレビを点けた。

一瞬、画面が鏡になったかとおもった。が、違った。

画面におれが映っていた。

リモコンをこちらに突き出している。

『5つ数える』

画面のおれが言った。

『数え終わったら、撃て』

はぁ?

『5,4,3,2,1』

画面のおれの親指がうごいたように見えた。

直後、こちら側のおれは消えた。

えっ、消えたのにどうやってこの文章書いてんだ?って。

そうくるとおもったぜ。

いいかい。

この文章を書いているのは画面のおれだ。

どうせ人生なんてテレビドラマみたいなものだろ。

ぽわ~んとしててさ。そこまで言わせんな、こら!


------------------------------------


105
【ポ】


いろいろな人への配慮を欠いた発言をしてしまおう。

祖母や両親の介護をしてきて、つくづく、死ぬときはポックリ

いきたいなあと思う。

人の死に様など人智の及ぶところではないが、

できることなら、誰にも迷惑をかけず、

自分自身も気づかないうちに、ポ


------------------------------------


106
【じょしを反乱】


朝刊に見て、驚いた。

「てにをは」でめちゃくちゃなのだ。

やがて、テレビがテロップ、本内も文字、ブログに文字などを

変なのに分った。

川端康成に『雪国』が冒頭をこんな感じ。

──国境が長いトンネルに抜けるも、雪国だった。

夕方、助詞で代表に声明は出した。

『我々助詞をまともに使えない本が世にあふれかえっている。

 それらを本屋の棚から駆逐し、アホな作家を追放しろ。

 そうすれば、我々は反乱をやめ、元にもどってやる』

ともこと。

出版社をこれの抵抗した。

「てにをは」へ多少おかしくてに、ケータイ小説やブログ小説に

売レセン(ドル箱)なのだ。

直木賞や芥川賞候補でだってなっている。

ほどなくして、小説家や記者たちで助詞で使わなくなったのに

当然を帰結だ。

それらは文章を例で、ここでを記さない。

ブログがちょっと覗けば、分かるでしょう。


------------------------------------


107
【あの世~善之助の場合】


善之助が温泉の脱衣場でころりと逝くと──


「逮捕する!」

刑事がいた。

「わっ! な、なんだなんだあ?」

「あんたは殺人鬼だ。

 ここにくるまでに、数え切れないほど、

 自分自身を殺してきたろう」

ほどなく裁判にかけられ、くだった処罰は、

‘死刑’ならぬ‘生刑’だった。



------------------------------------


108
【あの世~一郎の場合】


代議士小沢一郎がしゃっくりをしたショックで

絶命すると──


「だめだめえ! そんなに持ってきちゃあ」

アパート管理人のあばちゃんがいた。

「それでよく墓場を通過できたわねえ。

 手荷物はトランク3個まで!」


------------------------------------


109
【来世~意次の場合】


天明8年(1788年)、

69年の生涯を閉じた田沼意次の魂は、3つに分れ、

百数十年後に生まれ変わった。

すなわち、

田中角栄、金丸信、額賀福志郎。

いやはや、本性は変わらなかったようだ。


------------------------------------


110
【あの世~健之介の場合】


健之介が親族に見守られながら静かに息を引き取ると──

「ふぅ~。極楽、極楽」

湯船につかっていた。

「はぁ~。生き返るなあ」

湯から出てヒノキのいすにすわると、

「旦那ァ。お背中流しやしょう」

うしろに背中流しのにいさんがいた。

「お。たのむよ」

「へいっ。おや、だいぶ肩が凝ってるようですぜえ」

「そうかい」

「さんざん踊らされやしたね」







© Rakuten Group, Inc.